24年10月 3日
現在の3D測定結果に満足していますか? 正確かつ再現性に優れ、信頼できると確信できますか? 記事を見る高速・高精度の 3D スキャナーにより、手間と時間のかかる木型製品の三次元測定作業を大幅に効率化することが可能です。
高速・高精度の 3D スキャナーにより、手間と時間のかかる木型製品の三次元測定作業を大幅に効率化することが可能です。
現在、多くの企業で働き方改革への取り組みが加速しており、技術者不足に悩む日本ではものづくり業界こそ待ったなしの状況と言える。また、団塊の世代のベテラン技術者の退職にともなう若手への技術継承に直面する状況もあり、非効率であった生産現場での測定作業の効率化に取り組む企業が増えている。
従来は、ノギスを使った手作業での測定が主流であり、湾曲形状や自由形状など発泡スチロール型の測定に膨大な時間を要していた。また、測定作業は往々にしてベテラン社員の暗黙知に依存する傾向があり、測定結果を元のCADデータと比較するのにも多くの工数がかかってしまう。加えて、測定精度を確保するために、生産ラインを一時的に止めてから測定を行うなど非効率な運用になるケースもある。
株式会社酒井木型製作所(以下、酒井木型製作所)は、半世紀以上にわたり培ってきた技術と経験を最大限に活かし、フラン用鋳造模型、Vプロセス鋳造模型、自動造型機用鋳造模型、金型鋳造模型、樹脂型鋳造模型、フルモールド鋳造模型など、さまざまな模型を製作するメーカーだ。工作機械メーカーから直接受注し、鋳造メーカーとタイアップしながら業務を行うビジネスモデルであり、顧客の要望に応じてその都度、模型の形状やサイズ、個数を柔軟に変えて納品している。その酒井木型製作所も同様の測定課題を抱えていた。
酒井木型製作所では、上述した測定課題だけでなく、少子高齢化による生産人口減少への対応、技術継承や若手育成、働き方改革への取り組みが課題となっていた。酒井木型製作所が行った3D測定の取り組みについて、プロジェクトの中心メンバーに話を聞いた。
属人的で非効率な寸法検査の改善が急務に
模型を出荷する前には、寸法検査による品質保証が必須だ。その測定は、従来手作業で行われており、鋳造品の模型であることから曲面を多く含み、複雑な形状をしたものが多いため難易度が高い作業になる。また模型の素材は発泡スチロール製が多く、柔らかく脆いため、測定の際には細心の注意を払う必要がある。定規やコンベックスを丁寧に1カ所ずつ当てながら寸法評価を行い、複雑な曲面の場合には、専用ゲージを作って測定することもある。
鋳造品の大きさも手のひらサイズのものから、長さ10mに及ぶものまでさまざま。当然のことながら、模型は基礎を担う部分であるため高品質かつ高精度な模型の納品が求められる。
「模型製作の際に求められる寸法精度は0.5~1mmですが、模型の詳細寸法を手作業で全測定するのは現実的ではありません。そのため、型を組み上げる際、あるいは鋳造品として仕上げる際、どの寸法が重要となるのかを判断しながら測定箇所を決めて、正しく評価する必要がありました。加えて、出荷前検査の最終評価は私以外行うことができません。そのため、出荷前の約1週間はほぼ検査だけを行うこともあり、検査をしている最中は見積りなどの業務もストップせざるを得ませんでした」(酒井氏)
酒井木型製作所における出荷前の寸法評価は属人化しており、酒井氏が長年にわたり試行錯誤しながら、感覚的に習得してきた技術だった。このように、暗黙知に依存していたため、形式化して社内のスタッフに継承するのは困難だったと言う。
「従来通りの体制のままでは、今後、お客様の信頼を保ち続けるのも難しくなります。この現状を打破すべく、デジタルを活用した業務改善に乗り出すことにしました」(酒井氏)
圧倒的な測定スピードの速さとコンパクト性を評価し「MetraSCAN 3D」を選定
酒井木型製作所では、測定作業を改善する手段として、実物の曲面や複雑な形状も一気にレーザーでスキャンし、3Dデータとしてデジタル化できる3Dスキャナーに目を付けた。そこで、磯沼氏が中心となり製品の比較検討を開始。
「当時検討していた3Dスキャナーに共通していた最大の難点は、測定スピードです。ある製品だと測定だけで8時間もかかってしまい、これでは実用に耐えないと考えていました」(磯沼氏)
酒井木型製作所の模型は大物も多く、かつ測定点数も多いことから、測定スピードの遅さは致命的だった。さらに、工場内には加工機器が所狭しと配置されていたため、大型の測定機だと限られた作業スペースを圧迫してしまう可能性もあった。
「経験を問わず、誰でも3D測定を行えるようにするには、コンパクト性が求められます。またお客様の要望に迅速に応えるには、測定スピードも重要です。この条件を満たす3Dスキャナーを探していたところ、ちょうど取引先の鋳造メーカーが、その通りの機能を備えたハンディタイプのMetraSCAN 3Dを使っていると知り、さっそくメーカーにかけあってみました。実際にMetraSCAN 3Dを試しましたが、スキャンスピードがとにかく速く、しかも測定中からPCの画面に3Dデータでリアルタイムに可視化できるため、これしかないと思い選定しました」(磯沼氏)
また、大小問わず測定可能な点もMetraSCAN 3Dのメリットになっている。MetraSCAN 3Dなら、たとえ大きい測定物であっても、後からデータをつなぎ合わせたり、位置合わせをし直したりなどは全く考えずに、一気にスキャンを進めることができる。さらにターゲットシールを貼り付ける必要がないため、何十点と測定するものがあっても、次々と測定が行える。まさに大型の対象物を高精度かつ高速に3D測定できる、自動化されたセルフ・ポジショニング・システムのために開発された「C-TRACK」ならではの特長を活かしているのだ。
測定作業の標準化と簡易化により作業効率が格段に向上
MetraSCAN 3Dを使った校正と測定なら、簡単な操作説明だけで誰でもすぐに覚えられます。もちろん、データ編集や検査用データを作れるほどになるには多少時間はかかりますが、測定作業そのものは新人が現場にやってきた初日で覚えていました」(システム管理者)
続けて酒井氏は「中型の模型を手作業で寸法測定していたころは、測定作業だけで1日半かかっていましたが、MetraSCAN 3Dにより半日にまで短縮できました。また、現在でも最終評価だけは私自身で実施していますが、寸法測定とレポート作成から解放されたため、出荷前検査だけで1週間拘束されるようことももうありません。これにより、削減できた時間を見積り作成などに有効活用できるようになりました」と話す。
現在では、磯沼氏が3Dデータで加工データを作り、そのデータをシステム管理者によるチェックを経たうえで加工機用のデータに変換。そこで組み上がってきた製品をMetraSCAN 3Dで測定し、設計データと測定で得られた3Dデータを重ね合わせて比較するといった体制になっている。また、測定結果が3Dデータとして蓄積していくため、納品後の顧客に対する品質保証体制も整えることができた。単に検査効率を改善しただけではなく、業務プロセスそのもののデジタル化が進んでいるのだ。
新しい時代に向けて3Dデータを用いた業務効率化を加速
今後も酒井木型製作所では、出荷前検査を含めた業務体制をより自動化し、熟練者に頼ることなく、若手主体で業務が進められる環境を整備していく方針だ。また、MetraSCAN 3Dや3Dデータを検査工程だけではなく、製造工程でもさらに活用していくことを計画している。その一環として3Dプリンタを併せて使用し、さらなる業務効率化を目指していく。
「昨今のコロナ問題や地政学的な問題により、木材などの材料調達が不安定になっており、価格も高騰しています。また、SDGsへの取り組みも行っていかなければ、会社の信頼性が失われてしまうでしょう。これらの社会的な問題に対応するためにも、3Dデータを使ったさらなる効率化に取り組んでいきます」と酒井氏は、今後に向けての思いを語った。