学生達がインダストリー4.0に向けて備えるために

ここ数十年、世界は主に技術の進歩によって、私たちの生活、仕事、コミュニケーションのあり方に急速な変革がなされています。この変革は一般的に、第4次産業革命を表す言葉であるインダストリー4.0と呼ばれています。インダストリー4.0では、我々は人工知能、ロボット工学、IoT(モノのインターネット)などの新しい技術が製造業に統合され、これまで以上にスマートで効率的、そしてよりネットに接続されたものになるのを目の当たりにしています。

インダストリー4.0が製造業を再構築し続ける中、雇用市場も再構築され、新しいスキルセットとコンピテンシーの必要性が生じています。これはつまり、教育者や教育機関には、将来の雇用市場の需要に備え、学生がインダストリー4.0の時代に成功するために必要なスキルを身につけられるようにする責任があるということです。この記事では、インダストリー4.0とは何か、それに必要なスキル、そしてこの変革に向けた学生の準備のための戦略について、ご確認いただけます。

革新的な大学の研究室で3Dスキャンを学ぶ2人の教師と2人の学生

エンジニアリング・ラボで対象物をリアルタイムで3Dスキャンする方法を学んでいる様子

インダストリー4.0とは何か、なぜそれに備えるのか?

製造業は、その黎明期から、第1次、第2次、第3次、そして現在は第4次産業革命、つまりインダストリー4.0とも呼ばれる技術の進歩によって、幾度も変貌を遂げてきました。世界中の水力発電および蒸気発電、電気、組立ライン、コンピューター、オートメーションなどの先進技術を製造業が導入し、プロセスの合理化、効率化、コスト削減を実現しています。

インダストリー4.0の技術や応用は、製造業者毎に異なりますが、ここでは第4の技術時代で使われる代表的な技術を以下に紹介します。

  1. スマートセンサーやIoT(モノのインターネット)は、リアルタイムにデータを収集、分析し、生産プロセスの改善、無駄の削減、機器の故障防止を実現するデバイスです。
  2. ロボット工学とオートメーション・システムは、繰り返し作業をさらに速く、さらに高い精度と品質で、エラーや事故のリスクを抑えるシステムです。
  3. 人工知能(AI)および機械学習(MLは、大規模なデータセットを分析し、プロセスの最適化、コストの削減、効率化に利用できるパターン、傾向、インサイトを特定できるアルゴリズムです。
  4. 積層造形は、3Dプリントとも呼ばれ、製造業者が複雑な部品や製品を無駄やリードタイムを最小限に抑えながら、カスタマイズや柔軟性を高めた生産ができる技術です。
  5. 3Dスキャン技術は、品質管理、検査、リバース・エンジニアリングなどのために、対象物や環境の正確で詳細なデジタルレプリカを作成できる技術です。
  6. 拡張現実と仮想現実(ARVRは、現実のシナリオをシミュレートする没入型でインタラクティブな体験を提供し、学習と定着を高め、トレーニングやメンテナンスのプロセスを改善させる技術です。
  7. クラウド・コンピューティングとビッグデータ・アナリティクスは、センサー、機械、人間などの様々なソースからの膨大なデータを保存、処理、分析し、意思決定やイノベーションの向上に役立てることができる技術です。
  8. サイバー・セキュリティは、機密データや知的財産、重要インフラストラクチャなどをサイバー攻撃の脅威から防護するソリューションです。

これらの技術の導入によって、人材の最適化、場合によっては削減が行われるにもかかわらず、DeloitteとThe Manufacturing Instituteによる最近の調査では、インダストリー4.0の技術は、不要となる雇用よりも多くの雇用を創出する可能性が高いとされています。パンデミックの前から、この業界の大きな課題の1つは熟練労働者の不足でした。この調査によれば、製造スキルのギャップによって、2030年には米国内だけで210万人の未充足の雇用が発生し、最大1兆ドルのコストがかかる可能性があります。

広がり続けるスキルギャップに対処するためには、既存の労働力のみでなく、現在、進路の選択中であり製造業を選択肢の一つとして考えている学生に対しても、適切な教育や訓練を提供することが極めて重要です。インダストリー4.0の技術がさらに普及し、影響力を持つようになると、将来の製造業従事者が職場で成功するためには、新たなスキルと知識が必要となります。2030年の時点で一般的な製造業の仕事の中には現時点ではまだ存在しない仕事もあるでしょうし、現在の仕事の中でなくなっている仕事もあるかもしれません。

だからこそ、学生はインダストリー4.0という常に変化する新しい現実に備え、有意義でやりがいのあるキャリアを見つける必要があります。

電気自動車を製造するために自動化されたロボットアームが使用されている組立ライン

自動車組立ラインでの自動化されたロボットアーム

インダストリー4.0で求められるスキル

インダストリー4.0が進化を続け、製造業が再構築されるにつれて、新しい仕事とキャリアパスが生まれ、新しいスキルとコンピテンシーへの需要も生まれています。ロボットやコンピューターは既に日常的でありふれた反復作業の一部を担っており、労働者は戦略的な意思決定、問題解決、コミュニケーションなどの活動にさらに集中できるようになっています。その一方で、教育システムは業界で起きているあらゆる技術的な変化に追いつくことができていません。その結果、熟練労働者の需要と学生の学習内容との間に大きな隔たりがあるのが現状です。

インダストリー4.0の時代で成功するためには、学生は技術力、認知力、社会情緒的能力を兼ね備えたスキルを身につける必要があります。これらのスキルは、業界、職務、責任の度合いによって異なりますが、必須とされるものをいくつか以下に紹介します。

  1. デジタルリテラシー:デジタルツールやプラットフォームを使って、コミュニケーション、コラボレーション、問題解決に取り組むことです。例えば、ソーシャルメディア、電子メール、インスタント・メッセージ、ビデオ会議、クラウドストレージ、プロジェクト管理ソフトウェアなどの利用が挙げられます。
  2. データ分析:様々なソースや形式からデータを収集、処理、解釈、視覚化し、インサイトを得て意思決定を行い、パフォーマンスを向上させる能力です。例えば、Excel、Tableau、Python、Rを使用して、販売データ、顧客フィードバック、生産指標を分析することが挙げられます。
  3. オートメーションとロボット工学:反復的な、危険な、または複雑なタスクを実行できる自動化システムおよびロボットシステムを設計、プログラム、操作、保守する能力です。例えば、Arduino、Raspberry Pi、PLCを使用して、ロボットアーム、コンベアベルト、3Dプリンター、3Dスキャナーの制御することが挙げられます。
  4. 人工知能と機械学習:データから学習し、予測を行い、プロセスを最適化するためのアルゴリズムやモデルを理解、適用、開発する能力です。例えば、ニューラル・ネットワーク、決定木、強化学習などを用いて、チャットボット、予知保全システム、サプライチェーン最適化ツールなどを作成する能力が挙げられます。
  5. 創造性と革新性:顧客、利害関係者および社会のために価値を創造する新しいアイデア、製品、またはプロセスを生み出し、評価し、実行する能力です。例えば、新しい製品ラインの設計、マーケティング・キャンペーンの開発、廃棄物やエネルギー消費を削減するための生産プロセスの改善などが挙げられます。
  6. 批判的思考と問題解決:複雑で曖昧な問題を、論理、証拠、創造性を駆使して分析、評価、解決する能力です。例えば、機械の故障のトラブルシューティング、顧客クレームの解決、品質問題の根本原因の特定などです。
  7. コミュニケーションとコラボレーション:アイデアを表現し、積極的に耳を傾け、多様な背景や文化、考え方を持つ他者と効果的に協働できる能力です。例えば、プレゼンテーションを行う、チーム・プロジェクトに参加する、同僚との対立を解決するなどが挙げられます。

インダストリー4.0には、学生にとって挑戦的でエキサイティングな機会がたくさんあります。これには、深い技術的スキルセット、イノベーションと競争力に不可欠な創造性、問題解決力、コミュニケーション、コラボレーションなどのソフトスキルが必要です。インダストリー4.0の潮流の中で、これらのスキルを開発、応用できる学生には、雇用主から高い需要があり、キャリアアップや自己成長の機会が増える可能性があります。

先端技術大学の教室で、VRヘッドセットを装着し、コントローラーを手にした学生が、ロボット工学の研究に没頭している

学生エンジニアが、仮想現実ソフトウェアを活用してプロジェクトを進めている様子

インダストリー4.0に対応した学生の準備方法

インダストリー4.0に向けた学生の準備には、教育者と教育機関の共同した、かつ積極的なアプローチが必要です。ここでは、将来の製造業の雇用市場の要求に対して、学生達が効率的に学べる環境を提供するための戦略を紹介します。

インダストリー4.0の技術を教室に取り入れる

学生が最新技術に触れ、製造業で使用されるあらゆる最近の先端技術を体験するために、教育施設はインダストリー4.0の技術を教室での講義に取り入れるべきです。

これには、複雑な概念を教えるために、仮想現実のシミュレーションを使用したり、ロボット工学やオートメーションをカリキュラムに取り入れたりすることが含まれます。また、3Dプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッター、CNCマシン、CADソフトウェア、3Dスカルプティング・ソフトウェアなどの様々なハードウェアやソフトウェア・ツールの操作を学べるメーカースペースを学内に設置することも可能です。このような場所で、学生は先端技術の世界に触れ、仕事での日常がどのようなものかを知ることができます。3Dスキャナーを操作したり、CADソフトウェアを使ったりする経験によって、学習経験が豊かになり、理想の仕事を探す際に他の人より優位に立つことができます。

このような取り組みの一例が、ウィスコンシン大学マディソン校の工学部内にあるDesign and Innovation Makerspaceです。古い工学部の図書館であったスペースを改修して2017年に開設されたこのMakerspaceでは、3Dプリンター、3Dスキャナー、CNCルーター、レーザーカッター、ドローン、VR/ARヘッドセットなどの、驚くほど多様なハイテク機器を利用できるようになっており、学生たちはこれらを活用しています。主に学生が運営するこのMakerspaceでは、新しい技術に触れ、革新的な製品の創成に集中するコミュニティを作ることで、学生の力を高めるように努めています。例えば、様々な学部の学生が最もよく使う汎用性の高い機器の1つが、Creaform ACADEMIAのポータブル3Dスキャナーです。これを使えば、自動車部品や歴史的遺物などのあらゆる対象物を簡単にデジタル化して、デジタルの世界に持ち込めます。

このようなスペースを設けることが予算的に難しい場合でも、地域のメーカースペースやサイエンスセンターと提携すれば、学生たちに最新のツールを使ってもらえます。このような施設では、ハイテク機器を利用できるだけでなく、教師向けのトレーニングも充実しているため、教師は後日、カリキュラムにハイテク機器の授業を導入することができます。

従来の産業技術に関する講座では、スキルの優れた従業員を求めるこれからの業界の需要に備えることはできません。積層造形法、ロボット工学、コーディングなどのインダストリー4.0の技術を学校のプログラムに組み込む必要があります。

業界のパートナーや専門家とのコラボレーション

地元の企業や業界のリーダーと提携することで、学生に貴重な実体験の機会を提供し、最新のトレンドや技術について学び、インダストリー4.0の仕事に必要なスキルやコンピテンシーについて、インサイトを深めることができます。これを実現するためには、教育機関は業界のパートナーや専門家との様々な方法での協力が必要です。

例えば、業界の専門家をゲスト講師として招くことで、インダストリー4.0関連の体験授業やワークショップを開催して、学生達が実践的なスキルを学んだり、講師自身のキャリアを紹介したり、学生の質問に答えたりすることができます。

また、工場や生産施設の見学会を定期的に開催し、製造工程の一部や製造業従事者の日常生活を見学してもらう方法もあります。そして、教育者は、学生が将来のキャリアパスに役立つ実体験を得るために、業界のパートナーとのインターンシップや実習に参加する機会を提供することもできます。

どのような形式であっても、業界のリーダーたちと協力することで、他では得られない業界の最新事情や知識が学校に提供されるのです。

peel 3 3Dスキャナーを使用して、学生に3Dスキャンとリバース・エンジニアリングの応用を教えている工学部の教授

peel 3 3Dスキャナーを使って、教授が3Dスキャンの本質的な概念について学生に知識を与えている様子

メンターシップ、コーチング、キャリアガイダンスの提供

複雑でダイナミックなインダストリー4.0の雇用市場を導くのは、特に上記の2つの要素がまだ学校制度に導入されていない場合、非常に大変なことがあります。近年、様々な技術的なブレークスルーやイノベーションが導入されているにもかかわらず、製造業はまだ世間的に危険、汚い、雇用が不安定というイメージがあります。

このような認識を改め、優秀な学生が継続的に製造業に興味を持てるように、教育施設はインダストリー4.0でのキャリアを目指す学生に対して、メンターシップ、コーチング、キャリアガイダンスを提供する必要があります。例えば、学校は、知識、スキル、ネットワークを共有し、フィードバック、アドバイス、サポートを提供できる経験豊富な専門家と学生をつなぐメンタリング・プログラムを作成することができます。また、学生が自分の長所、興味、目標を確認し、適切な仕事の機会や雇用主とのマッチングを支援するキャリア・カウンセリングや職業紹介サービスも提供ができます。

また、製造業で働く場合の給与面でのメリットを学生に示すことで、この分野のキャリアを追求する機会、報酬、メリットを強調することも有用です。特定のスキルや資格を取得した場合に、どの程度の収入が見込めるかを実例を挙げて説明するのです。その方法のひとつが、卒業時に資格取得に使える単位を作ることです。卒業時に取得できる資格に向けて、単位を取得したり、努力したりすることで、学生は資格を手にしたうえで、進学したり就職したりすることができるのです。

結論

前述のように、インダストリー4.0は製造業を変革し続け、就職を控えた学生たちに新たな機会と課題を生み出しています。次世代の労働者がこうした機会と課題に対応できるようにするためには、学生にインダストリー4.0の仕事に対応できるよう準備することを促進し、新しい技術と業界のトレンドに焦点を当てたカリキュラムに更新し、教育機関と業界リーダーとのパートナーシップを確立する必要があります。協力しあうことで、スキルギャップを埋め、製造業が成長と革新を続けるために必要な人材に社会がアクセスできるようになるのです。

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